抹茶はもう「飲み物」ではない。ロサンゼルスが教えてくれるブランドの本質
- SHORYU SHIOBARA
- 2 日前
- 読了時間: 5分

カテゴリー: 米国市場参入・ブランディング
読了時間: 約7分
ロサンゼルスの街を歩いていると、ある光景に気づく。
抹茶ラテを手に持ちながら早歩きする人、ジム帰りにカフェへ立ち寄る人、車のドリンクホルダーに緑色のカップを差し込んだまま走り去るドライバー。
抹茶はもう、「座ってゆっくり味わう日本茶」ではない。ロサンゼルスの日常の動線に、静かに、しかし確実に溶け込んでいる。
コーヒーとは「別の価値観」を体現している
興味深いのは、抹茶がコーヒーの代替として選ばれているわけではない、という点だ。
かつてコーヒーが「忙しさ」「生産性」「ハードワーク」の象徴だったとすれば、抹茶はもう少し異なる価値観を表している——ウェルネス、バランス、自分のペース。
ロサンゼルスでは近年、こうした価値観を重視するライフスタイルが急速に広がっている。ヨガ、マインドフルネス、オーガニックフード。「頑張ること」より「整えること」を選ぶ人が増えた都市において、抹茶はその空気感と自然に重なった。
飲み物を変えることは、生き方のスタンスを表明することでもある。抹茶を選ぶとき、人は単に「おいしいから」ではなく、「こういう自分でいたい」という感覚で手を伸ばしているように見受けられる。
カフェは「目的地」ではなく「動線の一部」になった
ロサンゼルスでCommunity GoodsやRok Matchaのような人気カフェに足を運ぶと、長居している人はほとんどいない。
友人と短く言葉を交わして、テイクアウトして次の予定へ向かう。ミーティングの前に寄って、気持ちを整える。カフェは滞在する場所というより、日常のルーティンに組み込まれたチェックポイントになりつつある。
そこで重要なのは、「何を飲むか」と同じくらい「どこで買うか」「どんな気分で飲むか」だ。飲み物のスペックより、それが自分のライフスタイルにどう馴染むか——ロサンゼルスの消費者はそこを最近見ている。
抹茶を飲むことは、いまや一種のステータスになりつつある。余裕のある自分、整った自分、流行の先端にいる自分——そのイメージを纏うための選択として、抹茶は機能している。
「品質」だけでは、アメリカ市場に入れない
こに、日本企業がアメリカ市場を見るうえで重要なヒントがある。
私たちも実際に、セレモニアルグレードの宇治抹茶をアメリカのカフェやバイヤーへ紹介したことがある。しかし、品質の高さだけで採用が決まるケースは、決して多くなかった。
バイヤーたちが実際に見ているのは、品質以外のいくつかの条件だ。
まず価格競争力。アメリカ市場には中国産の抹茶も多く流通しており、品質にこだわる日本産はどうしても価格が高くなる。「品質の差」を「価格差」として正当化できるストーリーがなければ、バイヤーは安い選択肢に流れる。
次に継続供給の安定性。カフェやブランドにとって、仕入れ先が途中で変わることは致命的だ。季節や収穫量に左右されず、安定して同じ品質のものを届けられるか——ここを問われる場面は多い。
そしてスピードと柔軟性。問い合わせへの返答速度、サンプル送付の早さ、交渉への対応——アメリカのビジネスは動きが速く、「本社に確認してから」というプロセスが繰り返されると、それだけで取引の温度が下がる。
さらにその先にあるのがライフスタイルとの接続だ。アメリカの消費者は、製品を買っているのではなく、ライフスタイルを買っている。「この抹茶を使うことで、どんな自分になれるか」「このブランドを手に持つことで、何を表現できるか」——そこまで含めてブランドが語れなければ、品質はただのスペックで終わる。
日本企業にある、まだ使われていないカード
日本企業にある、まだ使われていないカード
逆に言えば、ここに大きなチャンスがある。
その証拠として、ストロベリー抹茶の成功を改めて見てみよう。あのトレンドを仕掛けたのは、日本の抹茶メーカーでも、老舗の日本茶専門店でもない。ロサンゼルスのコリアタウンにある韓国系カフェだ。
彼らが使っていたのは、中国産の抹茶だった。品質を最大化することよりも、「いかにコストを抑えながら見た目と味のバランスを整えるか」を徹底的に考えた。そこに、もう一つの発想が加わる——「ヘルシーで可愛い飲み物を飲んでいる私」というライフスタイルを、ドリンクのビジュアルデザインそのものに組み込むことだ。実際には全くヘルシーではない。ただ、鮮やかなストロベリーと体にいいのイメージが強い抹茶の層、SNSで映える見た目、飲む前に写真を撮りたくなる佇まい。結果は大成功だった。
この話が示しているのは、残酷なほどシンプルな事実だ。アメリカ市場では、「何で作るか」より「どう見せるか」「誰の気分を満たすか」の方が、先に勝負を決めることがある。
日本の抹茶が持つ品質、背景にある文化、職人的なこだわり——これらはアメリカ市場において、本来なら強力な武器になりうる。アメリカの若い世代が「日本」に対して持つポジティブなイメージは、今まさにピークに近い。
足りないのは品質ではない。「この抹茶を選ぶことで得られるライフスタイル」を言語化し、届ける力だ。
ウェルネスを追求するロサンゼルスの消費者に向けて、あなたの抹茶がどんな朝をもたらすのか。どんな一日の始まりを演出できるのか。それをビジュアルで、言葉で、ストーリーで伝えられたとき、日本の抹茶はアメリカ市場でさらに大きく広がっていくはずだ。
品質は土台だ。しかしそれだけでは扉は開かない。土台の上に、ライフスタイルという「物語」を乗せること——それが、ロサンゼルスという市場が日本企業に突きつけている課題であり、招待状でもある。
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