アメリカで採用するなら / 現地スタッフと日本人駐在員の使い分け
- SHORYU SHIOBARA
- 22 時間前
- 読了時間: 6分

カテゴリー: 米国市場参入・組織づくり
読了時間: 約9分
アメリカ進出を決めた日本企業が、最初にぶつかる壁の一つが「人」の問題だ。
誰を雇うか。日本から誰を送るか。現地で採用するか。その判断を間違えると、ビジネスの立ち上がりが大きく遅れる。逆にうまくいけば、現地展開のスピードが一気に上がる。
ロサンゼルスで日米両市場のビジネスを見てきた私たちの経験から言えば、この問いに「どちらが正解」という答えはない。ただ、「何をやらせたいか」によって、答えは明確に変わる。
日本人駐在員が強い場面
まず正直に言っておく。日本人駐在員には、現地スタッフでは代替できない強みがある。
最も大きいのは本社との連携だ。日本企業の意思決定は、社内の文脈や人間関係、暗黙のルールを理解していないと動かせないことが多い。「なぜこの判断が通りにくいのか」「誰に話を通せば早いのか」——これは現地採用のスタッフには、どれだけ優秀でも最初はわからない。
次にブランドの哲学の体現だ。日本企業が持つ品質へのこだわり、細部への気配り、取引先への誠実さ——これらは言語化しにくい部分だからこそ、企業文化を身体で知っている人間が現場にいることで伝わることがある。
さらに立ち上げ期のスピード。ゼロから現地スタッフに全てを任せるより、本社の意図を理解した人間が現地にいる方が、初期の判断が早い。
ただし、駐在員にはコストがかかる。ビザ、住居手当、帰国費用——年間のトータルコストは、現地採用の上位職に比べてもかなり高くなる。そのコストに見合う役割を与えられているかどうかは、常に問い直す必要がある。
現地スタッフが強い場面
一方で、現地採用のスタッフにしかできないことも多い。
最も明確なのはローカル市場への接続だ。バイヤーとの関係構築、インフルエンサーへのアプローチ、メディアへの売り込み、コミュニティイベントへの参加——これらはすべて、現地の文化や人脈の中で動ける人間の方が圧倒的に有利だ。
日本語訛りの英語でメールを送るより、ネイティブが書いた一行の方が返信率が上がることは、残念ながら現実としてある。アメリカ人同士の会話のトーン、冗談のセンス、商談でのカジュアルな雑談——こうした「文化的な空気」を自然に操れるのは、現地の人間だ。
また採用・労務の観点でも、現地スタッフの方が動きやすい。カリフォルニア州の労働法は非常に厳しく、日本の常識で管理すると法的リスクが生まれる。現地の雇用慣行を肌で知っているスタッフがいると、チームの運営がスムーズになる。
現場のリアル: ある日本企業が日本人駐在員だけでロサンゼルスのオフィスを立ち上げたが、現地のバイヤーやパートナーとの関係構築が一向に進まなかった。現地採用の営業担当を一人入れた途端、商談のペースが変わった。「彼女が話すと、相手の反応が全然違う」と駐在員本人が言っていた。
日系アメリカ人という選択肢
見落とされがちだが、日系アメリカ人(Japanese American)は独自の強みを持つ。
日本語が話せるケースもあれば、話せなくても日本文化への理解や親しみがある場合が多い。アメリカ人としてローカル市場で動けながら、日本企業との仕事にも違和感がない。
ただし注意点がある。「日系アメリカ人だから日本の文化を理解している」という前提は禁物だ。3世・4世ともなると、文化的なバックグラウンドは様々で、日本語も話せないことが多い。「日本人っぽいだろう」という期待を一方的に乗せるのは、本人にとっても失礼にあたる。
あくまで「その人のスキルと経験」で判断し、日系であることはあくまでプラスアルファとして捉えるべきだ。
よくある失敗パターン
パターン①:駐在員に何でもやらせる
立ち上げ期に、日本から優秀な人材を一人送り込んで「全部任せた」とするケース。その人がマーケティングも、営業も、経理も、採用も担当することになり、結果として全部が中途半端になる。
アメリカでは、職種の専門性が日本より明確だ。「なんでもできる日本人」スタイルは、現地では通用しにくい。
パターン②:現地スタッフを「実行部隊」だけに使う
日本人が全ての判断を下し、現地スタッフはその指示を実行するだけ——という構造にしてしまうパターン。現地の声を取り入れ、これでは現地スタッフのモチベーションが続かない。
アメリカの職場文化では、自分の意見が尊重されること、裁量を持てることが重要だ。「言われたことだけやる」を強いると、優秀な人材はすぐ辞める。アメリカ人は、日本人が思う3倍、やめてきたり、転職をすると思っていい。
パターン③:文化の橋渡し役を誰にも担わせない
日本側と現地側が、それぞれ別々に動いてしまう。本社は現地の状況を理解できず、現地は本社の意図を理解できない。お互いへの不信感が積み重なり、チームがバラバラになる。
この「橋渡し」の役割を誰かが意識的に担わないと、組織は機能しなくなる。
理想的な組み合わせ
あくまで一例だが、私たちが見てきた中でうまくいっているチームの構造はこんな感じだ。
日本人駐在員(またはリモートの本社担当) が担う役割:本社との連携、品質基準の維持、中長期の戦略判断。
現地採用スタッフ が担う役割:営業・バイヤー開拓、SNS・マーケティングの運用、現地のリレーション構築。
文化的な橋渡し役(日本文化に理解のある英語ペラペラの日本人)が担う役割:日本側と現地側の意思疎通、採用・交渉でのニュアンス調整。
完璧な構造はない。規模や業種によっても変わる。しかし大事なのは、「誰が何を担うか」を曖昧にしないことだ。役割が不明確なまま人を増やしても、コストが増えるだけで機能しない。
採用のタイミングも重要だ
最後に、よく聞かれる「いつ現地採用を始めるか」について。
正直に言えば、「もう少し固まってから採用しよう」と思っていると、永遠に採用できない。アメリカでは採用にも時間がかかる。求人を出して、面接して、内定を出して、入社するまでに1〜3ヶ月かかることは普通だ。
拠点を作ったらすぐに採用を検討し始めること。そして最初の一人は、スキルだけでなく「この人と一緒に0→1を作れるか」という視点で選ぶことを勧める。初期フェーズに入った人間は、ただの社員ではなく、文化の最初の担い手になる。
「誰を雇うか」より「何をやらせるか」を先に決める
人材の問題は、採用する前に「何をやらせるか」を明確にすることから始まる。
日本人駐在員か、現地スタッフか——その問いの前に、「ロサンゼルスで最初の半年間に何を達成したいか」「そのために何が足りないか」を整理することが先だ。
ロサンゼルスは多様な人材が集まる都市だ。日系アメリカ人、アジア系、バイリンガルの人材も豊富にいる。正しい役割設計ができれば、想像以上に強いチームを作れる可能性がある。
人が揃えば、市場は動く。
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