日本でいま流行中のBrandy Melville——アメリカでどう広まったのか、その戦略を解剖する
- SHORYU SHIOBARA
- 6月16日
- 読了時間: 8分

カテゴリー: ブランディング・ファッション・米国市場参入
読了時間: 約9分
最近日本で店舗を持ち、日本の若い女性の間で、Brandy Melvilleへの注目が高まっている。
ヴィンテージライクなグラフィックT、ベビーピンクのニット、クロップドのカーディガン——TikTokやInstagramで見かける機会が増え、「アメリカっぽい」「カリフォルニアガールな雰囲気」として話題になっている。
しかし実は、Brandy Melvilleはアメリカのブランドではない。イタリア発のブランドだ。
創業者のステファノ・マルサンはイタリア人で、ブランド名も架空の「Brandy(アメリカ人の女の子)」と「Melville(イギリスの男の子)」の恋愛ストーリーから取られた。それがなぜ、「カリフォルニアガールの象徴」として世界に広まったのか。
そこには、日本ブランドがアメリカ市場を攻略する上で参考になる、いくつかのリアルな戦略がある。
アメリカ上陸:LAを「起点」に選んだ理由
Brandy MelvilleがアメリカでのZ世代・ミレニアル世代への普及を本格化させたのは、2000年代後半から2010年代にかけてだ。最初の主要店舗をロサンゼルスに構え、カリフォルニア発のブランドとしてポジションを確立した。
なぜLAだったのか。答えはシンプルだ。「カリフォルニアライフスタイル」というイメージが、世界中の若者にとって最も強く機能するブランド文脈だったからだ。
サーフィン、ビーチ、日差し、自由な女の子——これらのイメージはLAと直結している。イタリア発のブランドが、LAを「文化的な本拠地」として選び直すことで、出自を問われずに「カルフォルニアのライフスタイル」を売ることができた。
これは日本ブランドにとっても重要な示唆だ。「どこ発か」より「どのライフスタイルを体現するか」の方が、消費者には伝わりやすい。
広告なし、インフルエンサー費用なし——なぜ広まったのか
Brandy Melvilleの最大の特徴のひとつは、従来型の広告をほとんど使わなかったことだ。
テレビCM、雑誌広告、大規模なインフルエンサーへのギャラ支払い——こうした手法に頼らず、代わりに使ったのはInstagramと「女の子同士のクチコミ」だった。
戦略はシンプルだった。ブランドのInstagramアカウントに、一般の女の子がBrandy Melvilleを着た写真を投稿する。そのアカウントをブランド公式がリポストする。そのページを見た別の女の子が「私も着てみたい」と思う——このサイクルを回し続けた。
支払いは発生しない。しかし「公式にフィーチャーされる」というモチベーションが、無数の一般ユーザーを自発的なコンテンツ生産者に変えた。
これはいわゆるUGC(User Generated Content)戦略だが、Brandy Melvilleが優れていたのは「ブランドの世界観に合う写真だけを選んでリポストする」という厳選のプロセスだ。掲載された写真は統一されたムードを持ち、アカウント全体がひとつの「世界観のムードボード」になっていた。
ただし、これは真似しようとしても簡単にはうまくいかない。Brandy MelvilleのUGC戦略が機能した背景には、いくつかの固有の条件があった。
まずターゲットの行動特性だ。日本の女性を見るとかなり多くは鍵垢であまり投稿数も少ない。ただ、アメリカの10代〜20代前半の女性は、オープンアカウントでもともと「自分の着こなしをSNSに投稿する」という習慣を持っていた。Brandy Melvilleは新しい行動を生み出したのではなく、すでに存在していた行動にブランドをうまく乗せることができた。
次に美学の明確さだ。「Brandy Melvilleらしい写真」は誰が見ても直感的にわかる。これは、Brandyだけではなく、Ralph Laurentやアメリカのストリートブランドなども似ているところがあると思う。写真一枚でそのブランドがパッと思い浮かぶ。
Brandy Melvilleらしいとは、ベージュとホワイトのトーン、クロップドシルエット、自然光、ゆるい笑顔——このビジュアル文法が徹底して一貫していたため、ユーザーが「どんな写真を撮れば公式にフィーチャーされるか」を自然と理解できた。世界観が曖昧なブランドでは、ユーザーは何を投稿すればいいかわからない。
そして、もう一つ刺さったのは、価格帯の絶妙さだ。Brandy Melvilleは「買えない憧れ」ではなく、「頑張れば買える憧れ」の価格帯に位置していた。投稿するためには実際に購入する必要があり、手が届く価格だからこそ購入→投稿のサイクルが回り続けた。
つまりBrandy MelvilleのUGC成功は、「投稿したくなるターゲット層」×「誰でも理解できる美学の一貫性」×「買える価格帯」の三つが揃って初めて成立した。どれか一つが欠けていれば、同じ仕組みを作っても機能しなかっただろう。
ワンサイズという「賭け」
Brandy Melvilleといえば、「One Size Fits Most(ほとんどの人に合う一つのサイズ)」という独自のサイズ展開が有名だ——そして物議を醸している。
事実として、このサイズ展開は細身の体型を前提としており、多くの女性が「着られない」と感じる。ボディポジティビティの観点から批判を受けてきたし、アメリカでも問題視されてきた。
しかしビジネス戦略の観点から見ると、この「排他性」はブランドに特定の効果をもたらした。「着られる人」と「着られない人」の境界が、ある種の希少性と憧れを生み出したのだ。「Brandy Melvilleが似合う体型」というイメージが先行し、それが若い世代の間での話題性につながった側面は否定できない。
ただし、この戦略はいま大きな転換点を迎えている。多様性と包摂性を重視するアメリカのカルチャーの変化の中で、サイズの排他性は強いバックラッシュを受けている。日本ブランドがこの手法を参考にするとすれば、「希少性の演出」の部分だけを学び、排他性の倫理的な問題は切り離して考える必要がある。

店舗デザインという「体験の設計」
Brandy Melvilleの実店舗は、一般的なアパレルショップとは異なる雰囲気を持つ。
ライトウッドの什器、ポスター、ぬいぐるみや雑貨が混在したディスプレイ——まるで「おしゃれな女の子の部屋」のような空間設計だ。服を買いに来るというより、その世界観に入り込みに来る感覚がある。
これはInstagramとの相乗効果も計算されている。店内の雰囲気が「撮りたくなる」ように設計されており、来店した女の子が自然に写真を撮ってSNSに投稿する。店舗が広告塔になる仕組みだ。
「買い物の体験」と「コンテンツ生産」を一体化させたこの設計は、LAのストリートウェアシーンで見られるポップアップ戦略とも通じている。
私たちも市場調査で日本ブランドの店舗をよく訪れるが、そのたびに感じることがある。写真を撮りづらいのだ。店員さんの配慮、照明、什器の配置、壁の色——「映える」ことへの意識が薄く、来店客が自然にスマホを取り出したくなるような仕掛けがほとんどない。Brandy Melvilleの店舗が「来たくなる、撮りたくなる」を徹底的に設計しているのとは対照的だ。SNS時代において、店舗空間は商品を並べる場所ではなく、コンテンツが生まれる場所として設計される必要がある。
なぜ日本でいまブームになっているのか
日本でBrandy Melvilleが注目を集めている背景には、いくつかの理由がある。
ひとつはTikTokによるレトロ・Y2Kブームの波及だ。2000年代初頭のアメリカンカジュアルへの郷愁が、TikTokを通じて日本の若者にも伝わった。Brandy Melvilleのヴィンテージライクなデザインは、このトレンドと完璧に重なった。
もうひとつは「アメリカの女の子っぽさ」への憧れの継続だ。アジアの若い女性の間には、「サンフランシスコ女子」「LA女子」といったライフスタイルへの関心が根強くある。Brandy Melvilleはその憧れを具体的な服として届けるブランドとして機能している。
そして価格帯だ。Brandy Melvilleは手の届く価格でありながら、「アメリカのリアルなブランド」という質感を持つ。日本のファストファッションとは異なる「本物感」がある。
日本ブランドへの示唆
Brandy Melvilleの軌跡から、日本ブランドがアメリカ市場で使えるヒントを整理する。
①「どこ発か」より「どのライフスタイルか」を売る
イタリア発のブランドがLA発として認識されたように、出自よりもライフスタイルの文脈の方が消費者には伝わりやすい。日本ブランドも「日本発」を前面に出すより、「このブランドが体現する生き方」を中心に据える方が、アメリカの若い世代には刺さる可能性がある。
②UGCの設計に投資する
広告費ゼロでここまで広まったBrandy Melvilleの最大の武器は、ユーザーが自発的にコンテンツを作りたくなる仕組みだ。「公式にフィーチャーされるかもしれない」という動機付けは、日本ブランドのSNS戦略でも再現できる。
③店舗(またはポップアップ)を「世界観の装置」にする
商品を並べるだけの空間ではなく、「来たくなる、撮りたくなる、体験したくなる」場所を作ること。これはECが主流になった時代でも、コミュニティを作る上で重要な役割を果たす。
「カリフォルニアの夢」を売ったイタリアのブランド
Brandy Melvilleの話は、ある意味で逆説的だ。
イタリアのブランドが、LAを「文化的な本拠地」として選び直し、カリフォルニアライフスタイルの象徴として世界に広まった。消費者の多くは、それがイタリア発だとは知らないまま「アメリカっぽい」と感じて手に取る。
ブランドの「出自」は、消費者には思ったより関係ない。重要なのは、どのライフスタイルを、どんな見せ方で、誰に届けるか——その設計の精度だ。
日本ブランドには、「Made in Japan」という強力なカードがある。しかしそれを切るタイミングと文脈を間違えなければ、もっと大きな可能性が開けるはずだ。
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